◆チシャもみ

 旧菜香亭のおごうさん(斉藤清子氏)は、小イワシ、メバル、カサゴなど山口市に近い海で獲れる小魚や、チシャ、フキ、タケノコなど地野菜の郷土料理を自慢していた。
 わけても、春になるとチシャもみが得意であった。
 チシャなますとも呼ぶチシャもみは、江戸の頃から山口の家庭菜園にはチシャが植えられて季節の副食のひとつであった。
 チシャは洋名をレタスというキク科の植物で、結球するものと自然体で生長するものに分けられる。
 山口でのチシャは主として結球ではなく「かきチシャ」といわれ若葉から生長するに従って、茎の下部から葉をかきとり茎が生長し約50センチ以上に伸びるまでに及ぶ。
 チシャは葉の色が赤味を帯びて、ちりめん状になったものがおいしいといわれ、摘みとった葉は喰べやすいように水にさらしアクをとる。イリコや小イワシは干物を、メバルやカサゴは焼魚でチシャの葉と共に和える。
 チシャもみは長州武士から庶民にまで親しまれたふるさとの味である。
 文化講演で来山した東大教授で歌舞伎評論家の河竹登志夫氏と菜香亭で会食した
とき、出されたチシャもみに、氏は後日の自著の中で、山口菜香亭でチシャなます
という料理で心ゆくばかりふるさと料理を堪能したと記述している。
 サクラの時季がおとづれるとチシャの舌ざわりがよみがえってくる。


(平成26年3月29日発行第32号掲載)