◆イトコ煮〜郷土料理の思い出 

 祇園祭の夏が訪れると、おごうさん自慢の郷土料理であるチシャなますやイトコ煮などを思い出す。
 進取的風土と風雅に親しむ長州の、恵まれた海の幸とつつましい里の味を存分に生かしたふるさとの伝承料理菜香亭であった。
 そのイトコ煮は四季をとわず冠婚祭礼はもとより、宴席にも出されるものでぜんざいほどしつこくはなく、さらりとした甘味には品格もある。もともとは山口、萩でつくられていたがいつしか県下全域にひろがったことで菜香亭ではイトコ煮をとくに輪島塗りの木皿を使用した。
 おごうさんから聞いた作り方は『なるべく大粒のアズキを選び、よく洗って火にかける。しばらく煮ていったん火からおろし、水をとりかえて又火にかける。アズキの形がこわれないようにまた煮る。
 別に昆布だしを用意し、シイタケ、カマゴコを入れもう一度煮る。煮汁は濁らせずアズキの形をくずれないようにする』と。もっとくわしかったが覚えていない。
 日本の食生活全集の農文協版「山口の食事」には“イトコ煮のアヅキは地元の新しいものに限る。山村ではアズキを一升びんに入れ保存する。イトコ煮は冷たいのがおいしいから温めることはしない。大変上品な良い味で、おつゆがぜんざいのごとく濁らず澄んでいるのが山口のイトコ煮である。”と掲載されている。
 朝日新聞版「菜香亭紳士録」には次の記事が残る。
『菜香亭3代目幸兵衛は井上馨に従って上京し上野精養軒で料理の修業にいそしみ、帰山以後は山口で初の西洋料理を出した。
 創業以来、井上、伊藤、桂、山県、寺内が菜香亭を利用し、伊藤博文は菜香亭でワインも飲んでいる』と。


(平成26年6月30日発行第33号掲載)