◆新春に想う

 菜香亭は今年が移築して以来二度目の新春となった。新春行事のひとつとして、市内の子供たちに日本古来の正月文化を楽しむ機会をと思い、書き初めの会をしたところ二十三名の参加者があり、伊藤博文をはじめ歴代の総理大臣や政治家の扁額がある大広間で小学生たちは思い思いに筆を運んだ。
 午前と午後の二回行われたが、午後の部には突然、何の前触れもなく二井山口県知事が参加され「新」という字を揮毫された。
 書き初めとは新年を迎えて書や絵の筆を持つことで、主にめでたいか若しくは希望をこめて字句を選び、正月二日に行うことになっているが、古くはこの日に宮中では吉書始の式が行われた。
 また、江戸時代の寺子屋では正月五日に、寺子屋で学ぶ子供たちが若水を汲んで墨をすり、菅原道真の画像をかかげて書き初めをしたという。その書き初めの書は、一月十五日に行われる左義長(どんど焼)の火で燃やし、高く舞い上ったほど字が上手になるといって喜ぶ風習もあった。
 書き初めのほか正月には、読み初、日記初、初旅、弾き初、打初、舞初、謡初、能初、初釜などと日本的な諸行事が多い。
 いづれも菜香亭のもつ百五十畳敷の純和風座敷がふさわしいと思う。
 司馬遼太郎の文学忌「菜の花忌」のシンポジウムで、河合隼雄文化庁長官は「日本の歴史文化は京都や奈良に代表されるものではない、各地方に存在する歴史文化の遺産こそ地方の時代の裏付であり、日本文化の象徴なのだ」と話した。
 今年も菜香亭のもつ歴史的空間に、新しい息吹きの躍動する年でありたい。


(平成18年1月20日発行第4号掲載)