◆ふきのとう〜春到来

     うずくまれば蕗のとう     白船

 この俳句は、山頭火とも交遊が深く、徳山市在住だった自由律の俳人久保白船のもので、句碑が旧徳山藩主屋敷跡の徳山公園にある。句のごとくフキノトウほど季節感を先どりするものは少ない。梅や沈丁花など早春に咲く花々とはまた違って、土を割って出る力強い生命力のもつ特有の匂いが良い。
 東北地方ではフキノトウを方言でバッキャと呼ぶ。深い残雪がやせてゆく頃になると、バッキャは黒い土の中から頭を出し、他の山菜より早目に子供たちの手によって摘みとられ、フキ味噌やつくだ煮にして野生の香りとほろ苦さに雪国の春到来を味わう。冬眠から目覚めたツキノワグマもバッキャをいち早く見つけて目を細めるとか。
 さて、その東北地方のフキを代表する秋田フキが現在の菜香亭の庭にも自生している。旧菜香亭の裏庭にあったものを、移築と同時に移植したからだ。
 斉藤清子さん(おごうさん)に聞くと、この秋田フキは大正のはじめ頃、おごうさんの父第四代斉藤甲兵衛氏が、秋田に嫁いでいた従妹の家から二株ほど持ち帰ったのが、旧菜香亭の裏庭一面に繁殖したのだという。
 秋田フキは大型フキとして全国的に知られているが、葉柄の長さは二メートルにもなり、葉の直径が一メートルに及ぶ幅をもつようになる。サハリン、北海道、秋田、岩手にも自生しているが、アイヌの伝説コロポックルに出てくるフキはこれである。
 梅雨近くなりホタルが飛ぶ頃になると、秋田フキが葉をひろげる菜香亭の初夏もまたたのしい。


(平成18年4月1日発行第5号掲載)