◆長州の8人目

 さわやかなモクセイの香りと共に新しく安倍晋三総理が誕生した。
 昭和二十九年生まれの五十二歳、歴代でもっとも若い戦後生まれの首相である。日本の初代総理大臣伊藤博文から数えて、山口県出身の総理としては8人目、佐藤栄作首相以来三十四年ぶりの誕生である。
 菜香亭には初代総理伊藤博文の扁額をはじめ山縣有朋、田中義一から岸信介、佐藤栄作に至る各宰相の書が百五十二畳敷の大広間に飾られている。また木戸孝允(桂小五郎)や長州ファイブのひとりで外務大臣をつとめた井上馨の菜香亭の亭名ゆかりの扁額もあり、県外の総理田中角栄、竹下登の菜香亭に寄せた書もある。
 アメリカと安保条約を結んだ岸信介首相は安倍新総理の祖父で、沖縄返還を果した佐藤栄作首相は大叔父にあたり兄弟宰相と呼ばれた。
 明治維新の胎動期から近代日本の基礎を築いた松下村塾出身の伊藤、山縣、そして太平洋戦争後の動乱期に民主主義日本の進路を定めた岸、佐藤と長州出身の宰相は、ふりかかる火の粉を払いながら力強くわが国を支えてきた。いま、その血を継ぐ新総理には内政はもちろん国際的な課題も多く課せられている。しかし、ひるむことなく長州8人目の自覚と気概を持ち、父君晋太郎代議士の夢を果たすべく美しい国日本の想像を目指して欲しい。
 菜香亭大広間にある扁額を見ていると、それぞれの個性と風格が表れており、その時代々々の歴史が偲ばれて菜香亭は日本政治史のコンテナーであると思う。  ともあれ、大広間に長州8人目宰相の書を掲げたい。

(平成18年10月15日 発行 第7号掲載)